サプライヤーとの共生

オンワードグループでは、私たち一人ひとりが倫理的な事業活動をおこなうとともに、サプライチェーンにおけるパートナー企業の皆様と価値観を共有します。そして、長期的な信頼関係を構築し、共に成長し共生して行ける企業を目指しています。

縫製工場の人権・労働環境の尊重

一般社団法人日本アパレルクオリティセンター(JAQC)

オンワードグループは、長年培ってきた品質管理に関するノウハウや見識を、アパレルファッションにかかわる企業や団体の皆さまに活用していただくための組織として、一般社団法人日本アパレルクオリティセンター(JAQC)を運営しています。
JAQCは、2017年に設立以来、オンワードグループ内外の企業に対して、工場監査、QMD、試験・分析、リペア等に係るサービスを提供しています。

一般社団法人日本アパレルクオリティセンター 理事長 山下 隆
JAQCにおける工場監査の実施状況に関するインタビュー

Q:まず「日本アパレルクオリティセンター」自身についてお聞かせください。

A:私たち「日本アパレルクオリティセンター」(以下JAQC)は2017年3月、前身であるオンワード樫山の品質管理部門が独立してできた法人です。

「業界の発展に寄与」が設立趣旨

Q:法人形態としては、株式会社ではなく「一般社団法人」ですね。

A:そうです。オンワード樫山の品質管理部門は40年以上の長い歴史を持ち、製品化前の品質チェック(写真1)や、製品事故が発生した場合の原因分析(写真2)、および再発防止のためのフィードバックなど、さまざまなノウハウを蓄積してきました。この貴重なノウハウを一企業の中だけに温存するのではなく、日本のアパレル共有の財産として活用し、業界全体の発展に寄与することが今後必要ではないかと考えました。したがって非営利団体である「一般社団法人」という法人形態にしたわけです。

  • 写真1:QMD打ち合わせの様子

  • 写真2:試験室

Q:社内のノウハウを他企業に提供することに異論はありませんでしたか。

A:JAQCを設立した2017年当時、すでに国内アパレルをとりまくさまざまな環境の変化が始まっていました。店頭販売が主流であったアパレル製品にも、国境を越えたEC販売が台頭し始めていましたし、サプライチェーン全体に亘る環境問題や人権問題なども海外からの指摘によって顕在化してきました。これらに対応するためには各アパレルが個別に対応するのではなく、チームジャパンで取り組むべきという構想でしたので、特に異論はありませんでした。

2007年から工場監査をスタート

Q:サプライチェーンの「人権」に関するお話しがありましたが、JAQCではどのような取り組みをされていますか。

A:前身であるオンワード樫山において、ライセンス契約をしていた海外ブランドからの要求で生産工場の「CSR監査」が義務付けられたのがはじまりです。2007年のことです。当時はCSRという言葉さえ知らず、とにかく監査に合格するためにどうすればいいか、何をどう是正すればいいのか手探り状態でした。

Q:生産工場の「人権」に関する問題とは、具体的にどのような問題なのでしょう。

A:時代性もあるでしょうが、海外ブランドからの要求によるCSR監査を始めたころは、児童労働を懸念する海外ブランドが多かったように思います。賃金でも、法律の定めた最低賃金を支払っていなかったり、残業加算が不足しているなど、ですね。監査後の指導によって改善されましたが、労働環境の面では消火設備がなかったり、食堂やトイレ、社員寮などの衛生面が劣悪な工場もありました。

Q:ライセンスブランドの工場監査を通して感じたことは。

A:一般的に行われている海外ブランドの監査を見て、違和感を持ったのがきっかけです。どういう違和感かというと、まず監査を義務づけているブランド側の人が誰も監査に立ち会っていないという点です。実際に監査を行うのは現地の監査会社の監査員ですが、彼らは何のために監査をやっているのか、工場の実情に則してどのように改善すればいいのか、などを工場に直接指導することは職務上できないんですね。一方の工場さん側は、指摘の意味を把握できていないので「不合格」といわれても、改善しようがない。また、ブランド会社は現地監査員が作成する「監査レポート」のみで合否判定を行い、結果が悪い場合は「数か月内に改善しなければオーダーを中止する」という通知が行われます。指摘事項の中には残業時間が多いとか、休日取得が少ないとか、発注するアパレル側に起因するケースもありますし、設備の改修など多額の費用が必要な場合もあって、短期間に是正できないものもあります。

「切り捨てる監査」ではなく「育てる監査」

Q:JAQCの監査の特徴や実施状況は。

A:CSR(Corporate Social Responsibility)は日本語で「企業の社会的責任」です。監査によって基準に満たない工場を切り捨てるのではなく、人権問題につながる可能性のある問題点を指摘し、理解を得たうえでレベルアップしてもらうことが本当の意味でのブランドホルダーの社会的責任ではないかと考えます。私たちの監査は現地監査員と共にすべての監査に立ち会い(写真3)、監査の目的、要求事項の意味をしっかりと説明し、さらには工場独自の事情を踏まえ、どのような方法で改善を進めていくか、などを提示しながら監査を行っています。そして、所定の基準を満たしている場合、認定証(写真4)を発行しています。2016年から、オンワード樫山が生産を委託するすべての工場を対象に監査を実施し、2021年3月現在、のべ335工場の監査を実施、工場数で79%、生産数換算で93%をカバーしています。また、せっかく工場さんにお邪魔するので、QC(品質管理)監査も同時並行で行っています。

  • 写真3:監査風景

  • 写真4:認定証

Q:工場さんの反応はいかがですか。

A:非常に好意的に受け取っていただいていると感じています。ある工場さんは「今までの監査は何のためにやっているのか意味がわからなかったけど、監査が工場のレベルアップに役立つということが分かった」と言っていただきました。

Q:日本のアパレルは欧米のブランドに比べて、人権監査が一般的でないように聞いています。

A:そうですね、一部のSPAブランドや、世界展開を行っている小売企業さんはすでに実施しているようですが、いわゆるアパレル企業で工場の人権監査を実施しているのはごく一部ですね。

「チームジャパン」で取り組みを

Q:いま「サステナブルファッション」というビジョンが企業の大きなテーマとなっていますが、日本のアパレル企業はどのように取り組むべきとお考えですか。

A: 「サステナブル」を実現する大きな要素は「環境」と「人権」です。この人権に関するサプライチェーンの管理ついては、残念ながら日本のアパレルは欧米ブランドに大きく遅れをとってしまったと言わざるを得ません。これは私見、というか私共JAQCの目標でもあるわけですが、遅ればせながらスタートする日本アパレルの人権監査は、個々の企業でそれぞれに取り組むのではなく「チームジャパン」で、共通のルールのもとで実施すべきと考えています。今でも複数のブランド監査を受けている工場さんが多くありますが、ブランドごとに要求事項が異なっていたり、判定基準がまちまちであったり、さらに時期によっては毎週のように監査を受けなくてはならない、といったご苦労もあります。

Q:「チームジャパン」に向けての取り組みとは。

A:現在、日本のアパレル業界団体に対して私共JAQCで作成した「CSR監査要求事項、評価要領」(下記にリンクあり)を公開し、皆さんで使っていただけるよう団体のホームページで紹介しています。
また、業界団体に「CSR委員会」を設置し、未実施のアパレル企業への周知と、時代に即した「CSR監査要求事項」のブラッシュアップなどを行っています。この活動を日本のアパレルの「人権監査プラットフォーム」に発展させていきたいですね。

Q:なるほど。ただ「監査」という言葉は「不正を摘発する」みたいなマイナスのイメージがありますよね。

A:そうですね。最近、私たちは「監査」(Audit)でなはく「調査」(Surveillance:サーベイランス)という言い方をしています。先にも述べましたが、合否を決めるわけではなく、改善すべきことを発見し、是正する、そして永続的にお取引を続ける、まさにサステナブルな関係を築くことが目的ですからね。

重要課題2 パートナー企業と共に