サステナビリティトップ対談

オンワードグループは、「ヒトと地球ホシに潤いと彩りを」というミッションステートメントを定め、地球と共生する経営の推進を目指しています。そこで、サステナビリティへの造詣が深いテキスタイルデザイナーの梶原 加奈子 株式会社KAJIHARA DESIGN STUDIO代表取締役をお迎えし、当社代表取締役社長の保元 道宣と「サステナブル経営」について語り合いました。

キレイゴトだけではない、全社員で臨むサステナブル経営

保元:いま会社の経営にあたっては、「サステナブル経営」という言葉は欠かせないものになっていると感じています。ただ残念なことに、ここ数年、アパレル業界は環境にネガティブな業界として挙げられることが多く、イメージが悪かったと思うんです。生活を豊かにする産業のはずなのに、そのように見られていることに危機感を感じていました。そんな中で、2021年にオンワードグループの中長期経営ビジョン「ONWARD VISION 2030」を発表し、2030年度の経営目標を達成するための5つの戦略のうちの1つとして「地球と共生するサステナブル経営の推進」を掲げました。

梶原氏:私は海外の仕事も多くやっている中で、2017年以降、海外ではかなりサステナビリティマインドが強くなったことを感じていました。日本は、少し遅れてCOVID-19の影響を受け、マインドが大きく変わったと感じます。

服を廃棄することのエネルギー負荷は大きいですし、私の専門分野であるテキスタイルも水やエネルギーを使うので、資源を使う難しさを感じています。現在、テキスタイルの開発においては、環境にやさしいものについて、常に話し合いながら進めている状況です。ただ、生活者にどの程度のスピード感で伝わっていくのかということについては予測がつきません。製造側がいくら環境を変えたとしても、生活者との関連性がなくては意味がありません。一緒に考える関係性を、生活者と結んでいくコミュニケーション方法を考えるのがとても重要だと思います。

保元:常に新しくて良いものを、安く提供しないと生き残れない、というような風になってしまうと、どうしても環境問題などのサステナブル経営の部分にしわ寄せがいってしまいますよね。社員の働き方についても同様だと思っています。値段ばかりを主眼に置いた競争の時代が長く続いたことが影響しているかと思いますが、結果としてワークライフバランスを保つことができない働き方になってしまっていました。

もちろんお客様の価値観や発想も変わっていかないといけないのでしょうけれど、私たちがこだわりを持って作ったことが値段に現れたとしても、それを理解していただけるようにお客様とコミュニケーションを持ち、伝えていくことが重要だと思います。

梶原氏:一方方向だけでは伝わらないですね。双方に考えていかなくてはなりません。

保元:そうですね。販売の現場も含めて全社員にサステナブル経営の考え方を共有することがとても大事です。経営トップの課題のような形でキレイゴトを言うのではなく、全社員が考えているという状況でなくてはならない。特に「ONWARD VISION 2030」を発表した後にも状況は変わっているので、常にやるべきことを考え、実行し続けなくてはいけない。そして、お客様とサステナブルに対しての意識を共有していけたら良いですよね。この辺りの今後の動向はすごく興味深いです。

梶原氏:今は、ファストファッションの大量生産からスローファッションの個別に販売していくマインドが生まれてきている時代です。そういう意味ではお客様とコミットメントしながら、その分だけ作ります、またそれを期待してくださいと会話ができることは重要だと思っています。ですので、私の監修するブランドについても伝える力というものはすごく強化しています。

どう作って、どう生産されて、どういう工程で作られたかというストーリーを伝えて共感が集まりやすい活動をしていく企業やブランドは増えていくと思います。

そして、その伝えたお客様に、愛着をもって長く使ってもらう、もしくはリユースやリペアへ愛着を持って出してもらえるような社会作りといった部分に、アパレル産業は非常に重要な役割を持っていると思います。

100%衣料品回収、原点回帰のオーダーメイドビジネス

梶原氏:サステナビリティの存在を考える中で、廃棄物を出さないための取り組みについても考えることが多くあります。焼却にかかるエネルギーは環境にも大きな負荷をかけています。

大企業だと衣料品回収を実施する事例が増えていますが、回収まではできるが回収後を語ることは難しいとおっしゃるケースがとても多いです。御社が実施している「オンワード・グリーン・キャンペーン」については、回収から回収後まで一貫して運営されていますよね。「オンワード・リユースパーク」での販売までされています。こういったリサイクル・リユースの仕組みというのは、これからの社会の中で掘り下げられていくと思います。

保元:「オンワード・グリーン・キャンペーン」をスタートした2009年当時は、お客様に来店していただくきっかけ作りや、お客様との繋がりを深めたいというような思いがとても強かったです。リーマンショックの直後で景気が悪かった時期でしたが、当社以外でもこういった活動を始められたところは結構あったと記憶しています。回収した衣料品をどうするかという部分で、各社非常に苦労されていて、活動を止めてしまった企業も多くありました。当社の場合は良いパートナーに恵まれて、軍手や毛布、固形燃料へリサイクルすることができました。社内だけでは、到底できなかったことです。また、リユース販売についても2014年から実施しています。

今の悩みは、なかなか回収量が増えていかないことですね。今以上に増やそうとすると、もう一工夫しなくては100%に近づいていくというストーリーが見えてきませんね。これは、当社の中で完結すべきなのか、世の中全体としてそういった仕組みができれば良いのかなど色々な見方があるかと思います。

梶原氏:お客様も社会に協力したいという気持ちは持っている方は多いですが、いざ実行するときに自分自身のメリットを考えるということはともないますよね。

そこがサステナビリティを推進する上での問題で、精神的には良いことなんですが、自分が生きてく上でメリットがあるのかということが、より近いところで感じないとダメなんだなと思います。リアルで分かりやすい伝え方と併せて、必要があると感じさせるものというのは具体化して行く必要があると思います。

受注生産は、大量生産を回避する対応策の筆頭です。企業はコミュニケーションの仕方を工夫し、受注生産に促すことを率先していくことが必要だと思っています。御社だと以前からオーダーメイドスーツなどを展開されていたり、スマートファクトリーもお持ちですよね。

保元:これはもちろんサステナブル経営でもありますが、経営戦略としても在庫を残さないビジネスモデルということは非常に重要です。当然、工場に投資をするには先行で費用がかかりますが、そういったビジネスモデルに転換して行くだろうなという予見はありましたね。約3年前、縫製技術とテクノロジーを融合したスマートファクトリーを設立しました。

元々オンワード樫山は、創業者が、オーダーメイドスーツしかなくスーツに給料の3ヶ月分を支払っていた時代に、既製服を持ち込んだことから成長した側面があるので、そういう意味ではスーツがオーダーになるというのは原点回帰なんでしょうかね。元々はそれが当たり前だったわけです。それが昔のように給料の3ヶ月分だったら作ってくれる人は限られますが、テクノロジーの進化した現代ではスマートファクトリーで3万円からご提供できるようになりました。

新しい時代の働き方の選択

梶原氏:地産地消の話が最近注目されているように感じています。物流コストとそれに対するエネルギー使用という部分に関しては、多くの方が知識を持ち始めたかなと思います。わざわざ産地から離れて、例えば都内で販売するというのではなく、産地の地域の方々へ販売し、コミュニティづくりまで行うという工場が急増しています。特に若い世代が感心を持っているようでして、産地の工場に就職して、直接販売も行うというように自分たちができるところから活動を広げています。

保元:今、若い世代が未来を感じて仕事として選んでいただけるかどうかということが、地産地消ビジネスで最も中心の部分になると思いますね。これまでは就職といえば東京や大阪などの都心部へ行く、というような時代が長かったので、一極集中みたいなことが当たり前でした。ですが、働き方とか生き方について、若い世代が今後どのような異なる価値観を持ち始めるのかというのは、確証をもってイメージするのが難しいですね。

梶原氏:COVID-19の影響を受けて、地方で暮らすことも良いんじゃないか、という考えは広がっていますよね。工場も、注文を受けた商品を作ることだけという限定的な概念にとらわれると、人が根付かず辞めてしまう可能性がありますが、コミュニティ作りとか、プラットフォーム作りとか工場でも生み出す力をつけてアクションができると人が集まって来るのかなと思います。

保元:おっしゃる通りですね。梶原さん自身もそうされていますが、例えば地方に住んでいても本社のある東京とも関わりを持つ、というようなことも良いですよね。都会だけや地方だけで生きていくというような極端なことではなくて、両方の良いところを取り込めるライフスタイル、働き方が選択できれば良いのかなと思います。当社が2019年から取り組んでいる「働き方デザイン」は、生活を楽しんでいるから、自分の個性を生かした仕事ができる/仕事の成果につながる、ということを目指していて、表裏一体になっているかと思います。

梶原氏:様々な働き方というのが望まれている社会に変化しているので、弊社も50代以上の経験者を再雇用し、働く日数を自由に選べる制度を導入しています。また、20~30代の方々というのは人生に色々なことが起こるタイミングですので、メンタルケアにも注力しています。働く選択肢が広がるがゆえに悩む人も多いということですね。

地域とのつながり、パートナーと共に

保元:2016年に立ち上げた日本全国のおいしいお取り寄せグルメを集めた「オンワード・マルシェ」は、地方で育まれている価値の高いコンテンツに光を当てています。日本には世界に誇れるものがたくさんあるので、そういうものを世界に発信していけたら良いなという想いでスタートしました。アメリカや中国に比べると日本は小さい国ですから、規模で勝つということは難しい。ただ、規模は小さくてもユニークで真似ができないものを持っています。食品というのは、どうしても土壌や水質などが直接関係してくるので、簡単には真似できないということで「オンワード・マルシェ」を始めました。梶原さんにディレクターを務めていただいている日本のモノづくりを支援する「クラハグ」は、「オンワード・マルシェ」と発想は同じです。農業から発生したものに繊維産業がありますよね。本業であるファッション分野で何かができれば良いなと以前から思っていたので、梶原さんとの出会いもありスタートすることができましたね。

梶原氏:国内の工場は、繊維産業が成長期の間、委託加工の発注を待つことに慣れていました。でも、2000年の前半ぐらいでそういった時代感は終わっていたように思います。自分たちが何か特技や強みを持って、どうにかして作ったものを売るというマインドへ変わっています。また、世代交代に問題を抱えている工場も多いので、次世代に関心を持ってもらうためにも発信力を強化していく必要がありまして、ファクトリーブランドをやっていきたいという流れが強まっています。ただいくつか問題点がありまして、すでに世界で認められている技術もありますが、ブランドづくりや商品化して自ら販売をするという部分は経験や知識が足りない。その問題を解決するものとして、工場を支援するプラットフォームとしての「クラハグ」の役割は大きいと思っています。

保元:地域との繋がりや地域のモノづくりを担うクラフトマンとの繋がりは、これからも幅を広げていきたいと思っています。スポーツは今とても盛り上がっていますよね。やはり故郷のものをみんなで応援したいというそんな気持ちがあるのだと感じています。

梶原氏:「クラハグ」で「エイル」という秋田にある工場のファクトリーブランドの立ち上げに携わらせていただいたのですが、ブランドを立ち上げたいという理由の根幹にあるのは、秋田の人に向けて「秋田でこんなことができるよ」ということを自らが頑張ることで見せて、地域の人の元気や励みになってもらいたいという想いだと聞いています。あえて挑戦をしなくても経営自体は順調だったようですが、それでも挑戦する意義があるということでしたね。

保元:今年に入って越境販売も開始しました。日本のユニークでマネのできない商品を世界に発信したい、販売したいというビジネスモデルのイメージがゴールとしてはあるので、そこに向けて少しずつ経験を積み重ねていってほしいと思っています。まずは越境ECからスタートしましたが、もう一つは「クラハグ」の取り組みを理解してくれるパートナーと共に、海外でもリアルに販売していくということができれば理想的ですね。

梶原氏:日本の文化から生まれたものに対する海外からの評価は高いと感じます。日本のおもてなしの文化や禅の心というのは、島国の自然崇拝の中から生まれた独特な感性です。COVID-19の影響で世界中が不安な思いをした中で、心の拠り所となる禅の心に現れる前向きな気持ちへの関心が高まっています。日本庭園や茶道等も人気で、それに通ずる盆栽や茶器、陶器などが海外からも評価をいただいています。「クラハグ」は取り組みの意義や1つ1つの商品のストーリーを丁寧に伝え、ファンになってもらえるパートナーを増やしていきたいと考えています。

私の本職であるテキスタイルの動きとしては、環境に負荷がない製造方法の選択や、循環する素材の活用が大きな課題となっています。サーキュラーファッションの発展に向けて、一歩先の開発を進めているところです。日本のテキスタイルが世界をリードしていけるように、サステナブルを意識したうえで特化した技術やデザイン性を掛け合わせて工夫しています。今まで培ってきた海外での経験を活かして、日本産地のグローバルな活躍をサポートしていきたいです。それ以外にも様々な課題はあるのですが、1つずつ丁寧に解決していこうと思います。

保元:そうですね。今我々が取り組んでいることや課題についても、社内だけにとどまらずステークホルダーの皆様や社外のパートナーともシェアをして輪を広げていきたいですね。もちろん社内でも全社員が意識を高め、当事者となってどうすべきかを考えて行動していくようになっていかなくてはいけません。

社内外、国内外に関わらず、まず伝えなくては輪を広げていくことはできません。コミュニケーションを大事に今後も取り組んでいきたいと思います。
本日はありがとうございました。

株式会社KAJIHARA DESIGN STUDIO 
代表取締役 梶原 加奈子氏 プロフィール

北海道札幌市生まれ。多摩美術大学デザイン学部染織科卒業。
英国王立芸術大学院(RCA)ファッション&テキスタイルデザイン修士課程修了。テキスタイルデザイナーとして産地工場の素材開発とジャパンテキスタイルのグローバル発信に携わる。ファッション、インテリア、車、建築など様々な分野の企業と取り組み、クリエイティブディレクターとしてもブランディング監修を担う。札幌の森にショップ、ダイニング、ホテルの複合施設「COQ」を立ち上げ、ローカルにおける自然と共に過ごす暮らしのバランスを発信している。
2021年より株式会社オンワードデジタルラボが立ち上げた日本のモノづくりを支援するD2Cプロジェクト「クラハグ」のクリエイティブディレクターを務めている。