サステナビリティトップ対談

オンワードグループは、「ヒトと地球ホシに潤いと彩りを」というミッションステートメントに基づき、地球と共生する経営を推進しています。優先して取り組む重要課題として「潤いと彩りに満ちた働き方」「多様な個性と共に」を掲げ、業務効率化とワーク・ライフバランスの実現により生産性を向上することを目的に、2019年から社員の働き方改革プロジェクト 「働き方デザイン」 をスタートしています。
そこで今回は、「働き方デザイン」をテーマに、1000社以上の企業にワーク・ライフバランス実現のためのコンサルティングを提供し、政府機関委員など複数の公職も兼任されている株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室 淑恵氏をお迎えし、当社代表取締役社長の保元 道宣と対談を行いました。

「画一性を重んじる」から「多様な個性をいかす」ために

保元:小室さんとの出会いは、2018年に数百人規模の管理職研修での講演をご依頼したところからでしたね。当時、お客さまの価値観やライフスタイルが多様になっていくなかで、多様なお客さまに対して商品やサービスを生み出す必要があるにも関わらず、会社のカルチャーとして画一性が強すぎると感じていました。昭和の時代に大きく成長した会社なので、そのDNAを大事にしすぎている部分があったのかもしれません。

小室氏:初めて管理職研修に行った時に、管理職以上の層には、こんなにも女性が少ないんだということに非常に衝撃を受けました。私にとってファッション業界のイメージは、ものすごく女性が活躍してるというイメージがあったので、意外でしたね。それから、それを率直に保元さんにお伝えしたような記憶があります。
それから「働き方デザイン」をスタートして5年が経ち、定量的にもほぼ全ての項目で成果が出ているというところですが、お会いした2018年当時は、企業としてこういった数値開示が必要な社会になることは想像していらっしゃったんですか?

<参考:ニュースリリース資料 オンワードの働き方改革プロジェクト「働き方デザイン」の取り組みと成果>

保元:想像していなかったですね。IRとかそういった目線で考えていたわけではなくて、営業戦略として捉えていましたね。多様な提案ができる会社になりたいなと感じていましたし、経営としてもそういった意思決定ができることが大事だと考えていました。

小室氏:お会いした時から徹底して、マーケットが多様な商品やサービスを求めているのに、オンワードはそのマーケットが求める商品やサービス作りができる体制になっていないということをメインの課題として捉えていらっしゃいましたね。2018年から残業時間を52.5%削減されているうえに、男性の育休取得率66.7%※1や女性リーダー比率29.4%※2と大きな変化が出てきている。取り組みの速さ、 着手したタイミングの速さも素晴らしいですが、途中でその取り組みが止まってしまう会社が多い中で、推進し続けられたことが結果に繋がっていると思うのですが、保元さんはどうして毎年着実に進めることができたんでしょうか。

保元:多様性が必要であり、逆に画一性の組織では今の時代を乗り越えられないと考えていました。多様になればこうなるというよりは、当時は今のままだと多様な声を実現していくための風通しが十分ではないという思いがありました。ですので、方向性としては絶対に間違っていないという確信はありましたね。時間軸でどのくらいかけて進めていくべきかということには迷いもありましたけど、コロナ禍で加速したと思います。
オンワード樫山だけでも全国に2,451人※3のファッションスタイリスト(販売職)がいます。その全員と丁寧にコミュニケーションをとることは非常に難しかった。それがコロナ禍でコミュニケーション手法としてデジタルの活用が急激に拡大したことで、オンラインで毎月全店長とコミュニケーションをとることが出来るようになりました。そういったことを続けていくことで、現場で何が起きてるのか、どう思ってるのかということがより理解できるようになったと思います。やはりDXの力は大きいですよね。

小室氏:保元さんが直接オンラインで各現場とコミュニケーションを取り始めたというのは、現場にも非常にインパクトがあったのではないかと思います。さらに、17日間連続テレワークもされていましたよね。2018年当時は、御社内でも大事な仕事はオンラインでは難しいと仰っていた方も多かったと思いますが、今では全然聞かなくなりました。そこが大きく転換されたきっかけが保元さんの17日間連続テレワークだったと思うのですが、いかがでしょうか。

保元:17日間連続テレワークは、いざ出社ができなくなった時のために体験しておくべきだと思って実行しました。大震災が起こるかもしれないし、危機管理という点で必要だと感じていましたね。

小室氏:実際にやれる方は少ないです。5日程度の短期間ではなく、17日間という長期間ですからね。その間全く出社されずに、でも大概のことはできたよという風におっしゃっていましたよね。17日間もあれば、様々なタイプの業務を在宅でされたと思いますが、 どんな気づきがありましたか。

保元:実施前は、対面でないとその指示の意味や熱意が伝わりづらいんではないかという思いはありました。ただ、それは必ずしもそうではないということが確認できました。ですから、今は本社にいなくても仕事ができると感じています。いろんな現場に行って、現場との接点を増やすことができています。社長は本社にいなくてはならないとなると、縛り付けられてしまう。そうではなく、自ら現場に行って、仕事を現場でやろうというマインドに変わっていきました。

小室氏:そのフットワークこそが業績に繋がっていますよね。そうやって実際に現場を見に来てもらえる人たちの数が今急激に増えていて、モチベーションにも繋がっていきますよね。社長こそが全国どこにいても仕事ができるべきだということですよね。

健康を第一に、長期で支えていく覚悟を伝えること

保元:女性リーダーの比率を上げていく中でも、女性の役員をどのように登用し、活躍してもらうかというのは、社長就任時からずっと考えていました。過去に女性役員の登用はありましたが、継続することができなかった。役員として登用することはあくまでスタートで、その後が大事だと考えています。どうすればストレスなく活躍できる場を作ることが出来るかということを小室さんにも相談し、2023年度に実施した役員候補者間で認識の共有や価値観の共有を行う「ダイアログセッション」をご提案いただきました。
「ダイアログセッション」の初回は、役員候補の4人と「役員になりたいのか」とか「なりたいとすれば、どんなことを実現していきたいか」というようなテーマを設けましたが、候補者の全員が役員になるということに対して非常に強い迷いがある中でのスタートでした。私がなぜ女性活躍を推進しようとしているのかという質問もあって、世の中の潮流に合わせて体裁を作るためなのではないかと懐疑的な様子もひしひしと感じましたね。ですので、私を信頼してもらうことに、最初は時間がかかりました。

小室氏:本人たちの懐疑的な様子を感じられたことは、すごいと思います。経営者が本質的なものを期待しているという発信をしないと、特に女性は信頼して能力を発揮することができません。これは多くの経営者はまだ持ってない認識だと思います。彼女たちの方にやる気がないんだとか、ワークとライフの様々な時間のやりくり上難しいからだとかと考えがちです。そうではなく、経営者側の登用の姿勢が本質的なものなのか、もしかしたら社会的に見栄えがいいようにするために使われてしまうのではないかという不安を持っているんです。自分が正当に評価されているかがとても重要なポイントであることを、 経営者がつかめたっていうのは、日本の社長で最初じゃないかと思うぐらいです。その後はどんなお話をされましたか。

保元:いろいろな会話がありましたが、私が本質的に女性活躍を推進したいと考えていることは分かったけど、女性が役員になった時に何を期待するかという話になりましたね。男性ではなく女性が役員になるからにはすごい成果を上げなくてはいけないのではないか、女性は成功しなくてはならないと思われてしまうのではないか、という不安の声もあがりました。もちろん役員に登用して、男性を含めて全員が100%成果を出せるわけでもないので、とにかく元気に継続してほしいと伝えました。役員になることで心身ともに病気になったり、それで務まらなくなってしまったりしたら、本人にとっても悲しいことですし、会社にとってもこういった試みが成功しないと思われることが、最も良くないですよね。そのように伝えたら、すごく楽になりましたと話していましたね。

小室氏:そこは慌てずに待つよというスタンスも非常に重要だったのかなと思いますね。女性でも男性でも、成果が出る時もあれば、いろいろな外部要因で出ない時もあります。その両方の時期を経ながらも、その人を役員としてしっかり評価して、継続して、期待して、育成していくものです。それが、女性がいざ登用された時にはさぞかし優秀なんでしょうねみたいなことを言われたり、女性はもれなく成果を出さないと、「ほら女性は」と言われたりしてしまうことは、他の会社も含めて役員候補になった女性たちの多くが感じているプレッシャーです。女性役員の登用に対する成功について注目が集まりすぎて、本人が非常に緊張する状態になり、それが成果を出せない要因になってしまうというような負の循環も生まれています。そんな中で「ダイアログセッション」を通じて、健康を1番大事にして継続してほしいこと、長期で支えていく覚悟を持っているということを保元さんから発信されたのは本当に大きいことだと思います。
その役員候補の女性たちと話すことによって、自分の中に持っていた考えが変わったことはありましたか。

保元:参加した役員候補は4人とも女性ですけど、全然タイプが違いますよね。女性の中にも多様性が非常にあるということを、改めて感じる場でした。女性だから、とかいうこともまた画一的な考え方ですよね。それはもちろん男性にもあるわけですが、そこまできめ細かく自分が 寄り添うことは出来ていなかったと思います。あとは営業のプロだからとか、キャリアやカテゴリーで人間を見て、本当の内面のところまで掌握するということを自分に課していなかったかもしれないなとは思いましたね。

小室氏:確かに、例えば○○というブランドを何年担当したからこのスキルがあるはずだというような、個人のバックグラウンドのキャリアなどを見て登用していくみたいなところが、御社では当たり前でしたよね。でも、1人ひとりの持っている強みだったり、弱みだったりというような個の特性を見て登用してくように変わり、保元さん自身も経営者としてバージョンアップしたみたいな感じがしますよね。

保元:そうですね。バージョンアップしました。ただ、経営って大変な仕事だなと思いましたね。そこまで入り込んでいくことにより、決断が非常に複雑になると思います。

小室氏:これから先、さらに女性役員比率の目標数値を30%と掲げていらっしゃいますが、それはどんなふうに考えられているか、また、それは経営にとってどういう意味があるのかぜひ教えていただきたいです。

保元:そうですね。ここはまさにスタートしたばかりですが、2024年度に女性役員2名を登用しました。これから 少しずつ毎年努力して、目標を達成したいと考えています。今はまだ10%程度の比率ですが、30%が達成できればより多様な意見が出てくるだろうと期待しています。
ただ、その中でもオンワード樫山の利益のほぼ半分を創出している第一カンパニーでは、役員は2人中1人が女性、課長以上の役職者は15人中8人が女性です。ここだけで見れば女性リーダー比率は50%になっていて、会議などでも活発な意見が出ています。

小室氏:女性活躍推進は、中心ではない部署に女性が増えていく現象が すごく多いんです。そういった企業が多い中で、 中核の第一カンパニーが今やもうリーダーの半分が女性になっているんですね。これは、本質を捉えて推進しているからこその配置だと思います。女性役員比率30%の目標は、いつごろの達成を見込まれていますか。

保元:2030年を1つの目安にしています。単純に言うと、毎年1人ずつそういった人財を創造していけば達成できる見込みです。毎年シンプルにはいかないかもしれませんけど、決して不可能ではないですよね。
そして、さらにその先はすごく楽観していて、現時点で係長職だと約50%※1が 女性で、そこは「働き方デザイン」の効果が出てきています。おそらく2030年頃まで一生懸命努力していけば、その先は女性活躍なんて言葉を使う必要もないぐらい自然にそうなっていくと思います。

毎月ヒーロー/ヒロインが誕生する褒める仕組み

小室:オンワードの業績はグラフで見ると綺麗にV字回復していらっしゃいます。その中で残業時間の削減にも成功していますが、どこがこの業績に繋がってきたと捉えられていますか。

保元:風通しが良く、本音でいろいろな話ができるということですかね。どんなことがお客さまに満足していただけるかということを、みんなでアイデアを出しながら具体化していくということに尽きるわけですが、その時に風通しが悪い、心理的安全性がない状態だと本質的な議論は難しい。あの人がそう言うから、それに従っていた方が無難だよねというような意思決定の中で、商品やサービスを提供するとうまくいかないですよね。
お客さまと接する販売の現場には女性の社員の数も多く、現場のメンバーに活力が出ると業績は良くなってきます。ものづくりも同様で、商品のクリエーションやデザインも女性がかなり活躍している領域ですから、商品が良くなって売り場に活気が出れば、自然に業績も上がっていきます。

小室:モノづくりや販売の現場を活性化させようと思うと、通常だと現場の社員向けの研修をすることが多いと思いますが、御社ではその要である役員クラスの皆さんが、現場の社員にエネルギーを与えられるようなコミュニケーションを取るための心理的安全性を学ぶ研修を受けられましたよね。現場に対して俺たちは厳しいままだけど頑張れと伝えるのではなくて、上からエネルギーが降ってくるような流れになったっていうことが、非常に機能しているように感じました。

保元:エネルギーもありますが、リスペクトすることはすごく大切だと感じますし、それを伝えることが幹部の仕事だと思っています。売ることも、作ることも、リスペクトし応援していることをフランクに伝えることが、役職者にとって必要なスキルだと思います。そういうカルチャーをつくっていくことが重要です。
オンワード樫山の販売の現場では、約700店舗 から毎月10店舗の優秀店舗を選出し、店長を毎月褒めています。選出された店長は、約700店舗の店長が聞いてる中で工夫したことなどを発表し、褒められます。このことはモチベーションに繋がっていると聞いていますね。それまで年に1~2回集まって表彰式を開催していましたが、2022年度からは、毎月欠かさずにオンラインで実施しています。
経営幹部の説教を聞くより、先月の優秀な成績をあげた店長が何をやったか、それはすごく実践的なレクチャーなので、聞いている側も勉強になるし刺激にもなります。

小室:毎月ヒーローが生まれるわけですね。約700店舗もの店長が参加するテレビで放送されたみたいな効果のある場で褒められることで、モチベーションにも繋がっているんですね。その考えはなぜ生まれたんですか。

保元:小売りの世界は毎月変化が激しいので、やったことがすぐに褒められるということも大事なポイントであるということと、勉強会としてすぐに生かしてほしいという思いもあって、クイックにやっていこうと考えました。オンライン会議であれば、1時間半で全店舗が参加できるようになったということもありました。
最初は褒め慣れなくて、硬すぎるといろんな人からよく叱られていました。途中で拍手をいれたり、効果音をいれたり、工夫をして楽しい場にするようにと試行錯誤でした。半年ぐらいはそんな感じでしたが、だんだん慣れてきましたね。

小室氏:働き方改革ではなくて働きがい改革だと言って、働きがいを作るには、やりたい仕事はとことんやりたいだろう、時間も関係なくやらせてあげた方がいいという、好きな仕事を好きなだけできた方が幸せである説に流れてしまう経営者の方もいます。ですが、自分の仕事を短いサイクルで見てくれている人がいて、その人からのフィードバックがもらえるという働きがいをもっともっともっと増やしていったらいいのにと思います。御社で実践している働きがいのある職場というのは、適切に褒められ、見てもらっていると感じられる職場だということが仕組みとして理解できました。
最後に、これからの展開についてどのように考えていらっしゃるのか教えていただけますか。

保元:ダイバーシティの中で、女性活躍の推進という部分では良いスタートが切れていますが、それ以外の部分ももっと推進していかなくてはいけないと感じています。例えば、若手の抜擢も推進していますが、業種を問わず離職なども多い。そういったキャリア作りの考え方は、会社の枠を超えていかないと成長がないと感じています。終身雇用という考え方が変わってきているので、会社のロードマップと個人のキャリアの考え方が必ずしも一致していない。そういったキャリア目線でのダイバーシティが増えてくると予見しています。
そんな中で個人がベストを尽くすことができる、強みを活かしあえるような組織づくりが必要で、それが今後の課題でしょうかね。価値観の異なる人財を調和させる仕組み作りというのはまだまだこれから、トライアンドエラーをしながら進めていきます。

小室氏:そうですよね。優秀な人財にいてもらえるだけの制度を、全社的に作っていくことの難しさはありますよね。今までの伝統的な働き方の中で、しょうがないと思っていたものですら、見直しが必要になるようなことが起きてくるかもしれないですし、それぐらい先駆的なことをやらなければ、優秀な人財から選ばれなくなってしまうかもしれないですよね。残された課題も少なくなってきていますが、さらなる飛躍を期待しております。

※1 「働き方デザイン」対象者における数値
※2 オンワード樫山原籍の総合職における数値
※3 2024年2月末時点の数値

株式会社ワーク・ライフバランス
代表取締役社長 小室 淑恵氏 プロフィール

3000社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げる「働き方改革コンサルティング」の手法に定評がある。安倍内閣 産業競争力会議民間議員、経済産業省産業構造審議会、文部科学省 中央教育審議会などの委員を歴任。著書に『プレイングマネージャー「残業ゼロ」の仕事術』(ダイヤモンド社)『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社』(毎日新聞出版)『6時に帰るチーム術』(日本能率協会マネジメントセンター)『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』(共著、PHP新書)等多数。「朝メールドットコムⓇ」「カエル会議オンラインⓇ」「介護と仕事の両立ナビ」「ワーク・ライフバランス組織診断」「育児と仕事の調和プログラムarmo(アルモ)」等のWEBサービスを開発し提供している。「WLBコンサルタント養成講座」を主宰し、2000名の卒業生が全国で活躍中。 私生活では二児の母。